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□ 手紙――こども □

 やまとくんへ

 きょうのしゅくだいは、だいすきなひとへおてがみをかくことです。
 ぼくは、だいすきなひとがたくさんいるので、たくさんかかないとだめです。
 なので、とてもたいへんです。
 1ばんはじめに、やまとくんへおてがみをかいています。
 つぎに、おかあさんにかきます。そのつぎは、おとうさんにかきます。そのつぎは、あたぎにかきます。だけど、もしかしたらくるみちゃんへのおてがみをさきにかくかもしれません。だって、くるみちゃんはいわないけど、あたぎよりもさきのほうがうれしくしそうです。そうだとぼくはおもいます。
 ほかにもいっぱいかかないとだめなので、ぼくはとてもいそがしいです。だから、おかあさんとはあそべません。あそべないというと、おかあさんはつまらなさそうにしていました。しゅくだいだからしかたがないけど、ぼくはなんだかわるいなとおもいます。だから、あとでおてがみをかくとき、ごめんなさいといおうとおもいます。
 きょうはいそがしいけど、あしたはだいじょうぶだとおもいます。
 だから、あしたはちゃんとおかあさんとあそびます。
 ぼくは、やまとくんともあそびたいです。
 だから、やまとくんをひとりじめしているえいじくんはずるいです。
 やまとくん、あそんびにきてください。まってます。
 このまえ、ぼくはならいました。とってもとってもあそびたいというぼくは、せつじつだというみたいです。
 やまとくんは、せつじつがすきですか? せつじつなぼくでも、すきじゃなくならない?
 ぼくはやまとくんがなんでもだいすきです。

  りゅうがより

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□ 手紙――盲目 □

 言われなくても書いてやろうじゃないかと挑む勢いで書いた手紙は、自分でいうのもなんだが、なかなかのものだった。
 これをあいつが読んだらどんな反応を示すのか。想像しただけで笑えたが、内容はいたって真面目で本気だ。
 この想いは、海よりも深く山よりも高い。お前のためならば、例え火の中水の中。――と、言ったように、惚れ込み具合を切実に訴えて、最終、どうやったらお相手願えるのか伺いをたてた。
 俺ってなんて健気なのかと、自分でも思ってしまうような手紙に仕上がった。
 そうして。
 これ以上のものはない、完璧なそれに。
 意外にも、相手からも手紙が返ってきた。
 これは本当に、意表を付いた返答だ。あいつならば絶対に、無視を決め込むと思っていたのに。遂に、俺のこの献身さに参ったか?
 しかし、嬉々として開けた手紙は、やはりそう甘いものではなかった。
『お前が死んだ後でなら、考えてやる』
 ……。
 ……いや、絶対考えないだろう。考えたところで、結局はNOを突きつけるんだろう。無駄死にをさせたいだけだろう。
 その思惑を隠しもせずに、見せ付けるような手紙を手に、俺は数秒考え、もう一度愛を記す事にする。
 こいつはどこまでイケズなんだ。俺は生身のお前と愛し合いたいのに、つれないことを言うなよ。それともお前、死体フェチか? お前にならばそういう趣味があっても、別段不思議ではないけれど。俺は付き合えないぞ。出来るプレイとそうでないプレイがあるからな。もっと、メジャーなやつでいこうぜ、なあ?
「――って! あ゛ッ!!」
「なに、ブツクサ言いつつ、気持ち悪い事を書いている」
 口から零れるものとは裏腹に、お前が欲しいんだとストレートに書いていた手紙が、贈る予定の相手によって奪われたかと思うと、躊躇いもせずに細かく破られた。
 ヒドイぞと抗議すれば、「それはお前の頭だ、世の中の為に早々にくたばれ」と言いつつ、ご丁寧にも先の手紙も俺の目の前で破り捨ててくれる。
 仕方がない。手紙で効果が得られないのならば、だったら初心に返り、声に出して愛を紡いでやろう。
 そうして滑り出した俺の舌を、けれども直ぐに受けるべき相手が強引に止めた。殴りつけるかのように勢いよく、ガムテープを口に豪快に貼られる。
「外したら、殺す」
 ……はいはい、わかりました。お腹が空くまで付き合いますよ。
 だけど、なあ、仁科。お前案外俺のこと嫌いじゃないんだろ?
 喋れないので、腹の中で俺は問い掛ける。いや、喋れたとしても、殴られるので口にはしなけど。人間、本心を突かれれば攻撃的になるものだから。

 言えよ、好きなんだろ?
 だってさ、お前。何だかんだで俺のことちゃんと相手にするじゃないか。
 なあ?

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□ 手紙――恋 □

 ミナトへ

 言わなかったが、実は今、日本に来ている。
 一週間滞在するというのに、忙しくて自宅にも帰れないくらいだから、日本にいる実感も意味もないのだが。

 泊まっているのは、お前と初めて過ごしたあのホテルだ。
 その一室で、こうして夜中に手紙をしたためている。
 滑稽だろう?
 だが、今夜はお前が傍にいないことがとても残念で、記憶にだけでもいいから浸かりたいんだ。
 安心しろ、この手紙は出しはしない。
 だから、少し付き合え。
 それくらい、いいだろう?

 なあ、ミナト。お前は覚えているのだろうか。
 このホテルの一室で会う以前に、何度か俺達は出会っていたことを。
 けれど、実を言えば、それよりも更に前から。俺はお前を知っていたんだよ。
 何度も見かけ気になったからこそ、連れがいるのを知りつつ声を掛けた。
 あの時、柄にもなく緊張していたと言ったら、お前は笑うか?
 でも、健気なものだろう?
 言葉を交わす前から、俺はお前に惹かれていて。言葉を交わして、完全に捕えられて。
 あとは、お前が知るように、俺はお前に夢中だ。俺の全ては、お前にある。
 それを、お前はどのくらい理解しているのだろうな。

 なあ、ミナト。
 俺との暮らしは、それほど悪くはないだろう?
 いつになったら、お前は俺に絆されてくれるのだろう。
 時間が切れてしまう前に、こっちを向いてくれよ。

 欲するものを全て与えると約束する。世界中のどの神が相手だろうとも誓う。
 だから、俺に望んでくれ。

 俺を選べよ、ミナト。

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