† - 4

 飯田真幸と言う男は、一緒に居ても疲れもしなければ、別段これといって何かを得られるような人物ではなかった。驚くぐらいに見た目は良いが、性格は捻くれているとさえ言えるだろう。だが、それは樋口とて同じなので全く気になるようなものではなく、逆に放っておけばいつまでも喋らないその意地の張りようが気持ちの良いものだった。多分自分が気に入ったのは、そう言う人としてはマイナス面だと言える部分を心地良く思ったからなのだと樋口は思う。井原を交え何かと上司の客人と接するのは、気が合った以外に理由はないのだろう。実際、樋口としても飯田としても、荻原の関係者に対しする気遣いなどから他人と接せられる程も器用ではなく、また単純な性格もしていないのだから、気が合っていなければ会話などしないだろう。
 だが、それでも三人の関係は、気心の知れた友人というものからは程遠く、井原にとってそれは寂しいものであるようだった。まだ梅雨は明けずとも、真夏を匂わせるような七月の日差しの中に消えていく青年の後ろ姿を眺め、「…なぁ」とまるで猫の鳴き声のような声で井原は樋口を呼んだ。
「飯田、大丈夫かな?」
「さあな」
「冷たい言い方するなよ」
「オレ達が気にしても仕方がない」
「そうだけどさ…心配じゃん」
 カランと中身が氷だけになったグラスを片手で揺すりながら、井原は軽く頬を膨らませ呟いた。心配なのは、樋口も同じであった。だが、言葉にしたように、自分達が心配をしても仕方がない。どうにもならない。
 元々細身だった身体が、季節のせいか服を着ていても中身が薄いのがわかるくらいに、飯田は目に見えて痩せていた。最近になり漸く落ち着いてきたようだが、少し前まではかなり荒んでいるような感じであったので、痩せたではなく窶れてしまったと言う方が正しいのだろう。樋口達の前であからさまに暴れる事はなかったが、彼が荒れているのは常に感じ取っていた。性格以上の自棄な態度を危惧していたのは、そう昔の話ではない。知り合って三ヵ月。当初の尖った感じがなくなった分、飯田と言う人間が淡くなっていっているように樋口には感じられた。井原が大丈夫かと、自分に問い掛けても仕方がない事を口にしてしまうのを理解出来るくらいに、あの綺麗な青年はこの世から消えかけているかのようだった。
 だが、それでも。自分達に出来る事はないだろうし、飯田自身何かをして欲しいなどと望んではいないだろう。接する時間は少なくとも、それくらいの事は樋口にもわかった。飯田は他人を甘やかす事はあっても、自ら甘える事はない人物だ。不用意に、大丈夫かなどと訊ねる方がかえって危なそうである。
「社長が居るんだ、心配するな」
「でもさ」
「飯田が望まない限り、誰も何も出来ない」
 そして、もしも彼が誰かに何かを望むのだとすれば、それは荻原以外には有り得ないと樋口は思う。何故かなんて、これだと言う理由はあげられないが、そう思うのだから仕方がない。
「オレ達には何も出来ない」
 きっぱりと言い切った樋口に顔を向け、井原は眉間に皺を寄せた。歪んだ表情が、まるで自分を非難しているように感じたが、それを受け止める気には更々なれずに気付かない振りをする。
 井原の嘆きに頷くのは簡単でも、樋口にはそれは出来はしなかった。すれば、何かを見つけてしまいそうな気がした。荻原がいるから大丈夫だと語る言葉は、真実であるはずなのに今はとてもあやふやで、まるでただの願望のようだ。だが、それでもその言葉以外は口には出来ない。
 遣る瀬無さと悲しみが不意に胸に湧き上がり、樋口は消えた青年の影を求めるよう、項垂れる同僚から外へと視線を移した。真昼の太陽が、真っ白な世界を作っている。先程感じだ予感が再び胸の中に蘇った。飯田が、この世界に溶けかけている。
 緑が生命力に溢れる季節は決まって、樋口は自分の中の力が吸い取られているように感じられた。時折、樋口雪が薄く感じるのは、そんな風にして中身が無くなっていっているからなのだろう。生きる力だとか、人の中に存在するべき命だとか、そう言った大げさなものばかりではなく。求める温もりが傍に居ない時だとか、大切な事を訊かれその答えを持っていない事実に突き当たった時だとか、理解出来ない他人の感情に触れた時だとか。日常に溢れるそんな一瞬一瞬が、樋口雪から色を吸い取っているように思える。だが、飯田の場合は自分のそれとは全く違い、周りに溶け込むかのような色の失い方なのだ。もしも自分が最終的に全てを無くしたならば、周りとは異質ではあるが、特に害も無い物体がそこに出来上がるのであろう。しかし、飯田は溶け込む事により周りの色を少し変えそうな気がする。飯田真幸の存在が消えても、彼自身の欠片は確かに残るような、そんな気がする。
 そんな風に、感じるばかりで上手く言葉には出来ない思いを少しでも吐き出そうと、樋口は口を開いた。だが、そこから零れるものは何もなかった。飯田が淡くなっているように感じ自分の心にあるものが、不安なのか恐れなのか、それとも憧れなのか安心なのか、何ひとつわからない。そんな中で言える言葉など何もなく、また井原を相手に向けるのも間違っているように思えた。
「…なぁ、樋口。本当に何も出来ないとしても、さ」
 腕時計で時刻を確認した井原が、席を立ちながら言葉を紡ぐ。
「それでも自分に何かが出来る力が少しでもあるのなら、してやりたいと、それを使ってどうにかならないかと思うのは間違いじゃないよな? たとえ相手が望んでいなくとも、心配するのが友達だよな?」
 自分を見下ろす表情がどんなものなのか簡単に想像でき、樋口は井原に視線を向けることはしなかった。「…ああ、そうだな」とテーブルを見ながら呟くように答えた自分の声が、傍に立つ友人に届いたのかどうなのかはわからない。ただ、去って行く井原の気配を感じながら、彼の思いを飯田が知っていれば良いと樋口は思った。
 例え役には立たずとも。




「……サイテー」
 出会ってからもう何十回目になるのだろうかその声を聞きながら、樋口は漸くそれが彼女の口癖なのかもしれないと気付いた。何かと夏南は、最低だとの評価をその辺に落としている。ならば、今回は何に対してそのレッテルを張り付けたのだろう。そう思いはしたが、振り返り確認する程の関心はなく、また気付いた事実に口癖ならば重要なものではない可能性が高いと樋口は視線を動かしはしなかった。だが、後頭部を攻撃されては無視しきるのも難しくなる。
 自分の頭に命中しベッドから床へと転がり落ちた猫のぬいぐるみから目を上げ、斜め後ろに立つ少女を樋口は振り返り見た。顔を顰めながらべろりと舌を出し、再び同じ言葉を口にして夏南は足音高く部屋を出て行く。先程の評価が何に対するものかはわからなくとも、今回の最低は自分に対してのものだというのは、流石に樋口にもわかった。しかし、最低なのが今の態度なのか自分そのものなのかはわからず、もう少し単語ではなく言葉で話して欲しいものだと考えながら腰を上げる。
「…何がだ」
「何でもないわよ、馬鹿ッ!」
 追いかけ問いかけた自分に、新たなレッテルを張り付けてくる少女をどう扱えば良いのか、樋口にはわからない。正直、手に余る。初めから勝気な性格ではあったが、最近は慣れたからかそれに拍車がかかっているように思う。この分ではその内、手も出るようになってくるのかもしれない。
「何でもないのなら怒るな」
「怒ってないわよ別に!――ってもう、何でこれとまらないのよ、ムカツク!」
 玄関に座り込み足元を弄っていた夏南が不意に悪態と共に立ち上がり、サンダルを突っかけた状態で足を踏み出した。仕方がないと樋口は腕を引きもう一度同じように座らせ、夏南の前に自分も座り込んだ。狭い玄関でドアに尻を押し付けながら、サンダルのベルトを締めてやる。不貞腐れた顔のままじっと樋口の手元を見る少女に、先程の話題に戻るよりは良いだろうと、「面倒なものを履いているんだな」と言葉を落とした。
「…お洒落っていうのは、そう言うものよ。あとは、我慢」
 そんな事も知らないのかと言う風に、不機嫌な声が返る。だが、返答すると言う事は幾分か機嫌が戻ったのだろうと、樋口は腕を引き夏南を立たせた。ドアを開けると、少女の顔が一瞬強張り、眉間に皺が寄る。
「何よ、帰れっていうの…?」
「腹が減った。飯にしよう」
 出掛けようと言いおき、部屋に戻り立ち上げていたパソコンの電源を落とし、財布と携帯電話を持つ。玄関へと戻り靴箱の上の鍵を持ち外へと出た樋口に、「勿論、驕りよね?」と夏南が笑いかけてきた。
「高い物でなければ、な」
「わかっているわよ。ファミレスで我慢してあげる」
「……そこまで我慢しなくてもいい」
 喜ぶべきなのか情けなく思うべきなのか、少女の提案に顔を顰めながら言った樋口に、夏南はニヤリと猫のように笑った。大した稼ぎはしていないくせにと言う様な、嫌な笑いだ。一体自分はどう見られているのかと思いながらも、訊く気にはなれない。聞いたら確実に、情けなさを味わう羽目になるだろう。
 実際、衣食住には全く困らないが、贅沢三昧をする程の給料は貰っていない。だが、高卒の就職四年目であるのを考えれば、相場よりは多い方だ。それに加え臨時収入も少なくはないので、樋口は夏南が考える程も金に縁がない訳ではない。しかし、彼女がそう思うのも良くわかる事だった。元々ブランド品に価値を見出す性格ではなく、寝る以上の必要性を感じていないので、1Kの部屋は至極簡素である。あの部屋に居たら、そう誤解するのも当然だろう。
 結局、ファミレスではなかったが、それに毛が生えた程度の店へと入り晩飯を摂る。雑誌で見た時から来てみたかったのだと言う少女の言葉が本物か気を使われてのものかはわからなかったが、店の雰囲気も料理の味も悪くはないので、樋口は考えるのは止める事にした。
「ね、さっきの話だけど」
「…何の事だ?」
「何よ、やっぱり聞いていなかったのね」
 唇を尖らせながら樋口を睨み、視線をそのままに夏南は勢いよくサラダにフォークを突き刺した。まるで相手を脅すかのような仕草だが、綺麗だがまだ幼さの抜けない顔では迫力に欠ける。どちらかと言えば男を挑発する顔だと思いながら、樋口はもう一度同じ言葉を口にした。何の事だ、と。
「……私、樋口のそう言うところ嫌いだわ」
 他人なんてどうでもいいってくらいに無関心なところがムカツクと、キュウリを突き刺したフォークを樋口へと向ける少女は、けれども仕方がないと言う風に溜息を落とす。
「ま、私も、仕事をしているところに話し掛けて悪かったんだけど…。でも、返事するんだもん、聞いているんだと思うじゃない。もう、気を付けてよね」
 どうやら、先程の最初の最低も、やはり自分に向けてのものだったらしい。話し掛けられた覚えも、生返事をしていた覚えもないが、無意識に自分が相槌を打っていた結果が先程の真相かと、樋口は漸く納得した。仕事と言うわけではなく、ただインターネットのニュースをチェックしていただけなのだが、偶々女優業をしている母親の記事を見つけたせいで物思いに耽っていたらしい。久し振りに見た母親は、役柄の写真なのだろうナース姿であり、何とも言えないものだった。
「悪かった。それで、何の話だ」
「何よ、あっさり謝っちゃって。反省なんてしていないんでしょう?」
「そんな事はない」
 怪しいものだと訝る夏南を宥める事は諦め、話があるんだろうと再び問い掛ける。樋口としては、夏南に対し適当な態度を取ったのは悪いと思うが、無関心だの何だの自分の性格を話題にされるのは真っ平だった。どんなに詰られようと、それを改善する事はないだろうし、する必要もないのだ。夏南に対してだけ気を付けるべきもので、これ以上の会話は意味がなかった。しかし、先程は聞いなかったからと誠意を示す第一歩として戻した話題は、正直性格を指摘される以上に厄介なものだった。
 何故、21歳の自分が、18歳の少女に性生活について問われなければいけないのだろう。
 頭が痛くなる気がしながらも、真面目に疑問を投げかけてくる夏南をどうするべきなのか、樋口は考えた。だが、考えたところで、良い案など浮かびはしない。普段からこの手の話が苦手な井原のその気持ちが、少しだけ実感を伴ってわかる気がした。けれど、やはり彼の気持ちがわかったところで、何の役にも立ちはしない。
「ね、どうなの? 樋口は男と女、どっちが好きなの?」
 先日、仕事の関係で樋口は女性と共にラブホテルへ行ったのだが、運悪く夏南はそれを目撃らしい。だからと言って、ここまで込み入って訊くなどおかしいと思うが、彼女の立場からすれば仕方がないのかもしれないとも思う。年齢的にも興味があるのはわかるが、夏南は自分のところに度々泊まるのだ。家主の性癖を気にするのも当然だろう。今までは樋口を同性愛者だと信じてきたからこそ泊まる事が出来たが、女性を連れた場面を目撃し不安になったと言うところかと、樋口は軽く息を吐く。
 自分が意識をしないので、今までは夏南が何を思っているのか考えてもみなかったが、初めて部屋に泊めた時は辟易するくらいに何かをしてきたら訴えるからと何度も釘を刺された。以降それがなりを潜めたのは、樋口にその気がないのを悟ったからではなく、同性愛者だという自分の勘を信じていたのだろう。だからこそ、先日の場面を見て動揺し、こんな事を聞くのだ。そう少女が考えているのだろう事は、よくわかった。だが、わかったが、やはり何を話せば良いのか樋口にはわからない。
 安心させる為に、嘘をつくべきなのか。それとも真実を話す方が良いのか。話すとしたら、何処まで話せばいいのか。恋の経験はあったとしても多くはないだろう少女に、一体何をどう言えばいいのか、見当もつかない。下手な事を言えば、軽蔑されるだろう。されたところでさほど問題はなく、訪問がなくなる点では良い様にも思えるが、流石にここまで知り合った少女をこんな事で傷付けるのは気が引ける。何よりも、馬鹿げている。
「お前はどちらの方がいいんだ?」
 スパゲティを巻きかけていた手を止め、樋口は自分の言葉を待つ少女に問い掛けた。男が好きと言えば、安心して今のままでいるのか。女が好きと言えば、騙したと怒るのか。自分からその答えを導き出しどう処理したいのか、わからずに樋口は夏南に向かって首を傾げた。ただ、考えるよりも訊いた方が早いと言うだけのものであったが、相手には伝わらなかったのだろう盛大に顔を顰められる。
「はあ? 訊いているのは私よ、何を言ってるの。樋口は自分の事を素直に答えればいいだけで、私の事は関係ないでしょう」
「正直に言う方がいいのか?」
「当たり前でしょう。で、どうなの?」
 少女の興味ありげな視線に、考えるのが面倒になった。何故こんな事になっているのか、その事の方が馬鹿らしく思えてくる。これで夏南に軽蔑される事になっても、それが自分なのだから仕方がないと樋口は開き直り話す事にした。たとえ後で、娘に何を教えているんだと堂本に怒られるとしても、今の自分には上手く逃げる事が出来ないのだから仕様がない。
「オレは男か女かを選べる程、どちらか一方を好きになった事はない」
「…どういう事? あの人、彼女でしょう?」
「お前が見たのは仕事で抱いただけの女だ」
「仕事…? ……仕事でそんな事をしているの?」
 不安と好奇心が混ざり合っていた夏南の顔に、はっきりと嫌悪と拒絶が浮かんだ。仕事の内容については話さないがと樋口は前置きし、役に立つかどうかはわからない言葉を付け加えておく。
「適任者がいない時に偶にまわって来る事があるだけだ。俺はそれを専門にしている訳じゃない」
「専門って、何よ」
「だから、それに関しては話さない。適当に何とでも思ってくれればいい」
 多分、お前が想像するのと変わりはないと答えながら、樋口はフォークを持ち止めていた手を再び動かした。スパゲティを食べ終え、パンを咀嚼しながら、難しい顔をして黙り込む少女の顔を眺める。父親を嫌い避けてはいても、ある程度の情報は持っているだろう。堂本がどんな仕事をしている人間か知っていれば、何らかの理由で他人と体を合わせる事があるのも予想出来るはずだ。その理由を口には出来ない訳も。
「……嫌じゃないの?」
「仕事だからな、そう言う問題じゃない」
「……好きじゃなくても、その…抱けるの?」
「ああ、そうだな。他の奴らはどうか知らないが、オレの場合は体を合わせるのにさほど特別な感情は要らない。お前が知っているように、相手が男でも女でもそれは同じだ」
「じゃ、…私ともしようと思ったら出来るの?」
 思わずしてしまった質問だろう、言った瞬間動揺しうろたえる少女に、樋口は「出来る」と間をおかずに答えた。
「だが、出来るからといって、抱きたいとは思わない。見た目もそうだが、オレはお前を可愛いと思う。だから、確かに一人の女に対する欲望が全くないと言うのは嘘になる。だが、それでも抱きたいとは思わない。今のを聞いていてもわかっただろうが、オレにとってセックスはあまり重要なものじゃない。数瞬の快楽よりも、オレは今の関係の方が断然良い。あえてお前とは寝たくはない。――オレの言っている意味がわかるか?」
 自分の問いかけに長い沈黙を経て「…多分、私も同じ」と言った夏南の頭を樋口が軽く撫でたのは、彼女が少し無理してその言葉を吐いたのがわかったからだった。




 樋口が自動車事故に遇ったのは、今日も暑くなるだろうと思える早朝の事だった。トラックがこちらに向かってくるのを認識した次の瞬間には、暗闇の中に投げ出されていた。
 朦朧とする意識の中で見たのは、克貴の姿だった。交通事故で死んだ彼に会う自分はかなりやばいのかもしれないと、他人事のように思った。自分の人生に満足は出来ないが、大きな不満もなかった。だが、今考えると、本当につまらないものだったと思えてしまうのだから質が悪い。今更別に、そんな事は気付きたくはないというのに。そう思いながら波間を漂うようにしていると、不意に井原の泣き顔が浮かんだ。何を泣いているんだと思う前にまた、気持ち良いのか不快なのかわからない空間に放り込まれる。そしてまた、井原の顔を見る。
 まるで自分が死んだように血の気を失った顔に、馬鹿みたいに涙を零す顔、放心しきった顔。確かに、職場で友人と言えそうな相手は井原しかいないが、何故こいつを見ないといけないのか。見るのなら、克貴の方が良い。堂本が良い。夏南だって構わない。井原は駄目だ、見ているこちらが疲れてくる。
 何だって井原なんだと思いながら樋口が漂っていたのは、生と死の淵なのだろうか。
 はっきりと意識が覚醒し、ベッド脇に座る井原が目を丸め驚いたあと顔を歪め泣き出したのを見たのは、事故から五日目の夕方の事だった。

2005/06/28